FC2ブログ

みなさん さようなら

父が綴じてあった『関西師友』3月号に、よく知られた論語の言葉で安岡正篤先生の講義記録がありました。
(昭和48年『関西師友』3月号 №173 掲載 原文のまま。 妙)

発行所: 関西師友協会
編集兼発行人: 伊與田覺
「続 論語読みの論語知らず(三)」 安岡正篤
(本文は昭和47年9月開催の先哲講座に於けるご講義の筆録であります。)

 放於利而行多怨 (里仁)
 利(り)によっておこなえば怨(うらみ)おゝし。

 人間は利益本位にやると、必ずいろいろの怨みが起る。一利あれば一害ありで、利というものは案外難しくて、厄介なものです。利を追求したからと言って、誰にも利が得られるというわけのものではないし、逆にとんでもない怨みを買う、そもそも自分自身怨まねばならぬことも世の中にはざらにあることであります。これは人間というものに通ずれば通ずるほど、よくわかることです。

 子曰、道不行、乗桴浮于海、従我者其由也與。子路聞之喜。子曰、由也、好勇過我、無所取材。(公冶長)
子(し)いわく、みちおこなわれず、いかだにのりてうみにうかばん、われにしたがわんものはそれ由(ゆう)か。子路(しろ)これをきいてよろこぶ。子いわく、由(ゆう)や、ゆうをこのむことわれにすぎたり、ざいをとるところなし。

 孔子のような人でも、しみじみと時勢を憂えて、人情の自然で時にはこういう、厭世的と言うか、逃避的な気分にもなる。或る時孔子はこういうことを言われた、「こんなにも道が行われないのなら、いかだにでも乗ってどこかへ逃げ出したいが、その時お供しましょうと言ってまっ先について来るのは、恐らく由(子路)であろうか」と。これを聞いて子路は餘程嬉しかったと見える、「子路これをきいてよろこぶ」。ところが海に浮ぶには乗り物をつくることから始めて何かと準備が要る。そうなると子路だけでは役に立たない。「元気がよくて果断なことは、わしよりも子路の方が勝れておるが、惜しむらくは材をとるところがない、使いものにならぬ」と言われた。孔子もなかなか辛辣です。

 この言葉も今日のわれわれにとって実に身に沁みるものがある。私のところなどにも随分いろいろの人がやって参りまして、中には“こういうことではいかん、何とか思い切った革新をやらなければならん。先生、一つ考えておることを思い切ってやって下さい。私も共鳴していつでも参じます”、そう言って悲憤慷慨する現代の子路的元気者がおる。が、さてそれではいかだをどうしてつくるのだということになると、さっぱりどうも材を取るところがない。

 最近の流行問題で言うと、日本列島改造案というものがそうですね。これはいかだに乗って海に浮ばんの一例です。こんな公害の日本では仕方がない。なんとかして公害のない日本をつくらなければならぬというわけで、どう改造しなければならぬかという抽象的な改造案は始末に困るほどあるけれども、さて、しからば具体的にどうやるかということになると、実に好い加減なものが多くて、空々寂々材がない。改造論どころか破滅論になってしまう。現に、今まででさえ持て餘しておった公害が、公害ではなくて私害になって、われもわれもと公害問題に便乗して、私心・私欲をほしいままにしようという人間がわんさと出て来ておる。或は公害を利用してわいわい騒ぎ立て、そのために警察を動員しなければならぬというようなことが到るところに起っておる。これは本当に難しい問題でありまして、餘程材を選ばなければ出来ることではありません。公害をなくそうとして、却って公害と私害を際限なくばらまくことになる。

 そこで思い起こすのは元の哲人宰相耶律楚材であります。彼は中国五千年の歴史にも類稀なと言われるくらいの大宰相でありまして、この人には私もつとに心服して、大正時代から大いに世に紹介しておるわけであります。あの大平原の英雄ヂンギスカンが当時二十七歳の耶律楚材に心酔して、彼を帷幕に迎えてより、更に次の太宗の時代を通じて三十餘年の間ずっと蒙古の枢要に坐って、実に偉大な成績を挙げました。反面大変な詩人で、又曹洞禅に於ては法嗣の位を取っております。この人の名言と言われるものの中に、これは「百朝集」にもおさめてありますが、

 興一利不若除一害。生一事不若減一事。(耶律楚材)
一利(いちり)をおこすは一害(いちがい)をのぞくにしかず。
一事(いちじ)をふやすは一事(いちじ)をへらすにしかず。

という言葉がある。これはあの大元国建設の準備的大事業の中から生まれた名言でありますが、確かにそうですね。すべて利には害が伴なうから、利を興す前に先づ害を除くことを考えなければならぬ。又軽々しく事をふやすよりは、悪いこと、餘計なことを省くことの方が大事であります。人間、何でもそうですね。身体でも、うまいものを食うことよりも、くだらぬものを出す方が――宿便を一掃する方が――どれだけ健康によいかわからない。日本列島をよくしようと思ったら、新規に何をしようかと考えるよりも、一つでも害を除くことを考えるべきである。これが日本列島を真に救う所以であります。害を除かずして利を興すことは出来ない。利を興そうと思ったら先づ害を除かなければならない。この二つが併せ行われることが大事でありますが、しかしいづれかと言うと、害を除くことの方がより大事であります。

 同様に義と利の問題も、利を追求しようと思ったら、先づ義を正すことを考えるべきであります。それでなければ本当の利にはなりません。中共との貿易にしてもそうであります。日本人は大きな期待を寄せるのですけれども、現実の中共は決してあの厖大な人口に目が眩(くら)んで考えるような消費市場にはならない。建設の面から考えても、今俄に大きな建設をやるなどということは到底出来ないと思われる。大きな建設は餘程政権が安定しておらなければ出来るものでないことは、少しその道に通じておる者ならすぐわかることであります。

 ご承知のように、もう毛沢東は殆んど廃人に近いと言ってよい。その上うち続く妖異極まる粛正の結果、多くの人材が失われ、或は隠れてしまっておる。今残っておるのは周恩来と江青を取り巻くわずかな人間に過ぎない。これが内部の大きな弱点になって、今や蔽うことの出来ない状態にある。そこで対外的に派手な手を打って、その内政の弱点をカバーしようとする。これは中国の歴史に繰返し行われておることです。今日の中共の対外政策はその典型的なものである。だから日本がそういう国に対するには、先づ何が義かということを考えて、落ち着いて形勢を観望することが一番賢明であり、且つ一番堅実なやり方であります。何もあわてて向こうの注文通りに躍る必要はない。躍らないからと言って、向こうが直ぐ日本を侵略するとか、攻撃するとかいうことは実際問題としてあり得ないし、又今日はそういう国際情勢にはない。それこそおっとり構えておってよいのであります。

 この正月、壬子のお話を致しました時に、今年は去年からの続きの問題にいろいろと新たな問題が加わって、これに便乗する野心家が跋扈(ばっこ)すると申しておきましたが、このまま進みますと癸丑には、癸にはご破算という意味がありますだけに、悪くゆくと、今日一応兎にも角にも落ち着いておる安定勢力というものがご破算になりかねない。それは政権の交代を意味する。又対外政策も厳しくなると見なければなりません。恐らく日本はアメリカから、内外の諸問題等に対して相当の変化を強いられることを予期しなければなるまいと思われます。或は経済的には、日本の円はまだ惰性で何とか従来通り保っておるけれども、最近では実際のところ二百四十円位までいっておりますから、いよいよとなると、再び切り上げの問題が現実となって、可成りな衝撃を起すだろうと予測されます。

 このように見てくると、どの問題をとっても、好い加減にしておけないことばかりでありますが、さて、それをどう解決するかとなると、最後はやっぱり材、人材であります。これは各人がそれぞれ自分の私生活に於ても真剣に考えなければならぬことであります。


スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

プロフィール

増田周作

Author:増田周作
(株)日新出版 創業者
月刊「特装車」「特装車とトレーラ」「NewTRUCK」編集発行人
「東京トラックショー」創立・主催者

大正15年8月30日生まれ 土佐出身
(H23年すい臓ガン、翌年肝臓ガン発病)
平成24年11月21日 肝不全で死去
       享年87歳

旧制中学1年1学期、上級生とのケンカで先方2名と共に退学処分。
15歳で安岡正篤先生門下に入る。
大阪商科大学(現・大阪市立大学経済学部)卒業。土木従事、新聞社を脱サラ後、広告代理店経営。昭和44年43歳、東京でトラックの月刊誌発行を始める。
湯島聖堂「斯文会」名誉会員・後援会常任委員を務める。
「呉越会」「東京トラックショー」「増田周作のおはようコラム」「日新論語会」など、常に社会の木鐸(ぼくたく)でありたいと願った“いごっそう”であった。
伊与田覚学監は10歳年上の叔父。

【 これがほんとうのあとがき。43年のもの書きの、最後の後書になった。われながらよく書き続けたものだと思う。
「生涯現役」。もの書きとして生涯現役を貫いた喜び、これに勝るものはない。読者の皆様に最後の「わだち」をお送りしてお別れをしたい。今、私は至福の感をもって最後のわだちを書いている。
 みなさん さようなら  11月13日 】
絶筆 H24年/12月号
「わだち=月刊 NewTRUCK 編集後記」

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

人が好き 歴史が好き みなさんようこそ

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

  • ページトップへ
  • ホームへ