FC2ブログ

みなさん さようなら

2018.04.16 06:55|社長の軌跡/人に四季あり
1990年(H2) 月刊「NewTRUCK」 6月号
人に四季あり

岡本利雄氏 
 おわり
いすゞ自動車(株) 顧問

背筋の寒くなったソ連
駘蕩(たいとう)大人の応対の中国

増田 ヒルマンミンクスの国産化の技術習得のためにイギリスに行かれたのはもう40年近くも前のことで、それからGMとの提携話やその他のお仕事で随分海外へ行っておられますね。
岡本 はい、行っていないのは、アフリカの下の方と、南のアメリカ大陸の部分位ですか、随分あちらこちらに参りました。
―― その中で思い出に残る土地はどちらですか。
岡本 ソ連です。その翌年には中国を訪問していますので、二つの社会主義国家を見たのですが、大きな違いがありますね。
 ソ連では、シベリアで六千kmもの石油パイプラインを敷設する計画がありまして、伊藤忠と一勧グループが参加することになり、その折衝のためのグループの団長に瀬島竜三さんが予定されていましたが、終戦後シベリアに抑留、壁塗りをさせられたのでソ連はイヤだとおっしゃる。それでお鉢がこちらに廻ってきました。
 折衝の相手は当時の権力者ブレジネフの女婿で、さし廻しのヘリコプターであちらこちらに行きました。シベリアは大変なところで、夏は泥濘(でいねい)で、冬になって凍りつかねば大きな作業はできんのです。
―― この正月にシベリアの空を西から東に飛びましたが、文字通り白一色で、こんなところに人が住んでいるのかと感心しました。
岡本 私はなぜかフルシチョフが好きで、そのお墓参りに行ったことがあります。モスクワ郊外の修道院の国家功労者の墓地にあって、労働英雄なんか大きなお墓があるのに、フルシチョフのは隅っこの小さなみすぼらしい墓で、ラフなスタイルの写真が貼り付けてあるだけ。墓も国家が指定するんでしょうね。
 ところが、2~3年後、行った人の話によると、少しお墓が大きくなっている、と言うんですな。その時々の評価で、墓が小さくなったり大きくなったり。(笑)
 ともかく、2週間程の滞在でしたが、何か締め付けられる感じで。
――私はモスクワとワルシャワの空港で何時間か過ごしただけですが、背筋が寒くなるところがありました。
岡本 それに較べると中国はまことに駘蕩(たいとう)とした応対で、ソ連とは大きな違いですね。

陽焼けせずゴルフ上達
即効薬的なものは駄目

―― 岡本さんは82歳というお年に見えないお若さですが、その秘訣はゴルフですか。
本 ゴルフだけじゃありませんが、その一つとは言えますね。いすゞの役員になった時、ある会で、岡本というのはゴルフばかりやっているそうだが、という話が出たと聞いたことがあります。たしかに、シングルまで行ったし、下手な方じゃないと思っています。
 始める以上、誰でも上手になりたいもので、私は5年間、夏でも冬でも毎朝30分は家で練習したし、日曜日は多摩川の土手でプロに教わりました。夏はいいが、布団に5分でも入っていたい冬に、服装を整えて外に出て練習するのは大変なことで、陽に当たらないからゴルフ焼けはないが、手の指はねじれている、それだけやれば誰でも上手になれる。いすゞというのはゴルフばかりやって役員になれるような甘い会社じゃない、とその男に言ったことがあります。
―― 出社前の30分の練習を続けたというのはおえらいと思いますね。大体、洗面して飯かきこんで飛び出すのがやっと、というサラリーマンが多い。青竹踏みは今もやっておられますか。
岡本 亡くなられた日本運送の大橋さんに30年ほど前に戴いたものを今でも愛用しています。昔はドシンドシンと家中に響くような音を出して踏んでいたのですが、これは年寄り向きじゃない。今は指先に圧力をかけて土踏まずをゴリゴリ百回くらいこすります。それから手足の体操をしますが、今でも直立して手はピタリと地面につきますよ。
 私は胸、ポリープ、喘息、腎臓ひと通りやって、おまけに脳梗塞まで体験しました。
 脳梗塞の後は100m歩くのも大変で、ガードレールなんかにつかまって一所懸命リハビリしたのですが、それでもゴルフには行きましたね。ご一緒した方には専門のお医者さんがいまして、適切なアドバイスをして戴き、腰の痛む時にはコルセットをはめるなどするうちに楽になりました。
―― 普段の健康についての取組が脳梗塞のリハビリに大いにものをいったのでしょう。
岡本 私は会社関係の人とは殆どゴルフをやりませんので、知らない方とメンバーを組みますが、プレーの後の雑談の時などに、年を聞いて皆さんびっくりされます。年の割には飛びますからね。
 健康法をよく聞かれるのですが、私は即効薬的なものは駄目だとお答えすることにしています。
 今は病院に行っても、風呂敷で包むほどの薬をくれる、私は1日分しか飲まないで捨てますが、知り合いの院長に聞くと、おれも飲まん、あれだけ出さんと病院がやってゆけない、(笑)と言う。
 じわじわ効く漢方薬の方がいいですね。体の方も、つまらんようなことでも毎日続けてゆくことが大事です。
 井上靖さんの『孔子』を最近読み切りました。孔子についてこれまで抱いていたイメージと随分違うと感じました。思案の人であると同時に行動の人でもあるんですね。

浄瑠璃では仲利太夫
声なき声を聞く盆栽

―― 岡本さんは浄瑠璃の名手ですし、盆栽にも堪能であられる。趣味生活も豊かで。
岡本 浄瑠璃は仲利(なかとし)太夫という名を貰って、先日も公演会に出ました。小さい頃、松茸狩りに行くと三味線を抱えて唄ったりしている、そういう素地があったかも知れません。
 盆栽は伯父がやっていて、そのお手伝いをしたのが始まりで、藤沢工場を作った時も一万坪の土地に野菜や実のなる果樹などを随分育てました。
 いま庭に50鉢ほどの盆栽があります。大きなものは一人では抱えられない位です。
 盆栽づくりのコツは、「声なき声」を聞いてやる。水が欲しいのか、こやしが要るのか、息ができないから土を替えてくれ、などの要求を叶えてやることです。
 それと重要なのは剪定(せんてい)で、誤って大事な枝を落とすと、形を整えるまでが大変です。
 随分いろいろなことをやって、中学生の頃は鉄砲と煙硝を自分で作って、鳥を撃っていたし、会社に入ってからは川釣り海釣りに熱中しましたが、腎臓に冷えはいけないというので止めた。ダンスにも一時凝って、かなり上手くなって、いすゞの販売店総会の時に佐良直美さんとゴーゴーを踊ったこともあります。
―― 随分多彩ですが囲碁、将棋の類いは。
岡本 伯父が碁狂いで、市会議長なんかしてたからお客が多い。伯母は食事を作って、夜半にお客が帰るまでコックリコックリやりながら待ってる。これはいかんと思ったので、一切やりません。

郷土で好きな高杉晋作
各部屋に安置の観音像

―― ご出身の山口県は沢山の人材を輩出しています。その中では誰がお好きですか。
岡本 高杉晋作です。思い切ったことをやって、綺麗に死んでゆきました。
―― なるほど、私も大好きです。奇兵隊を作って大活躍しました。粋人でもあり、いいですね。
三千世界の 鳥を殺し
ぬしと朝寝がしてみたい
は彼の作といわれていますし、
面白き こともなき世を
面白く
の辞世も彼らしい。吉田松陰、坂本龍馬もそうですが、大変な人物が出て、若くして死んでいます。
 観音さまをお祀りのようですが。
岡本 家の部屋に一体ずつと、こちらと、7体あります。どれも買ったものはなく、観音さまの方からこちらに見えました。
 私は信者ではありませんが、仏の世界から人間の世界へ一歩踏み出して、衆生と共に苦労を分かって救って下さるという観音さまを尊いものだと思いますね。
 子供をふたり死なしていますので、その命日なんかには観音経を上げています。私自身は余り宗教心は持っていません。死んだらキリスト教でも何でも葬ってくれたらいいと思っています。
 この年になっても、ひとつの悟りというか、確固としたものがなく、本でも手当たり次第です。
―― あんまり早く固まらん方がいいじゃないですか。夢や迷いがあるのは生きている証拠ですよ。
 長い間、有難うございました。
(おわり)
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

プロフィール

増田周作

Author:増田周作
(株)日新出版 創業者
月刊「特装車」「特装車とトレーラ」「NewTRUCK」編集発行人
「東京トラックショー」創立・主催者

大正15年8月30日生まれ 土佐出身
(H23年すい臓ガン、翌年肝臓ガン発病)
平成24年11月21日 肝不全で死去
       享年87歳

旧制中学1年1学期、上級生とのケンカで先方2名と共に退学処分。
15歳で安岡正篤先生門下に入る。
大阪商科大学(現・大阪市立大学経済学部)卒業。土木従事、新聞社を脱サラ後、広告代理店経営。昭和44年43歳、東京でトラックの月刊誌発行を始める。
湯島聖堂「斯文会」名誉会員・後援会常任委員を務める。
「呉越会」「東京トラックショー」「増田周作のおはようコラム」「日新論語会」など、常に社会の木鐸(ぼくたく)でありたいと願った“いごっそう”であった。
伊与田覚学監は10歳年上の叔父。

【 これがほんとうのあとがき。43年のもの書きの、最後の後書になった。われながらよく書き続けたものだと思う。
「生涯現役」。もの書きとして生涯現役を貫いた喜び、これに勝るものはない。読者の皆様に最後の「わだち」をお送りしてお別れをしたい。今、私は至福の感をもって最後のわだちを書いている。
 みなさん さようなら  11月13日 】
絶筆 H24年/12月号
「わだち=月刊 NewTRUCK 編集後記」

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

人が好き 歴史が好き みなさんようこそ

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

  • ページトップへ
  • ホームへ