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みなさん さようなら

2018.08.06 06:00|外部 寄稿者
だれのあやまちなのか

大谷健 (元朝日新聞編集委員)

 昭和20年8月6日、広島に、8月9日には長崎に原子爆弾が投下された。以後世界は何回も局地戦争に巻き込まれたが、原爆は使われなかった。広島は原爆の聖地となり、“ノーモア・ヒロシマ”の声は世界の人々の心を打った。広島はいま経済大国日本にふさわしい大都市である。当時は放射能にまみれた広島は100年間は元に戻るまいといわれたが、広島人の意欲はそんな悲観論をすぐはねとばしてしまった。

 ただ爆心地の平和記念公園はさすがに粛然とさせる。そこの石に「やすらかに眠って下さい 過ちはくりかえしませぬから」と鎮魂の辞がきざまれている。この辞ははじめは少しおかしいと思った。たしかにアメリカに戦争をしかけたのは日本である。アメリカが対日石油輸出禁止など日本を窮地に追い込んだせいという意見もあるが、その挑発に乗った日本の指導者はバカだった。しかし原爆という超残虐な武器を、市民多数が住む都市に投下することが許されるのか。

 あやまちは繰り返さないというが、その主語は日本人か、アメリカ人なのか。アメリカ軍に占領され、独立後も駐日アメリカ軍に守ってもらっている手前、アメリカの残虐を直接指弾することができず、かかる卑屈な碑文となったのかと思っていた。

 当時広島市近郊の被爆者収容所に「日本空軍が今朝未明ニューヨークを急襲し、広島型の新型爆弾数発を投下、アメリカ全土は大混乱」というデマが伝えられた時、病人達は「ワーッ」といって立ち上がり、「バンザイ」を叫んだという。その多くはやがて死んでいった。

 だが不思議に日本人はアメリカ人を怨まなかった。無惨に原爆で死んだ肉親の怨みを晴らすためアメリカ大統領や原爆搭載機の乗組員の命をねらうという人間はいなかった。日本人もかつては赤穂浪士事件のように仇討ちは嫌いでなかったのに。

 「あやまちは繰り返しません」という碑文の主語は、アメリカ人でも、日本人でもなく人類であったのだ。原爆に報いるに原爆を以てすれば、今頃は地球は環境保護どころでない。広島人が主語を「人類」にしたのは、やはり懸命だったと思う。
 太平洋で日本とアメリカの戦争は惨烈をきわめた。日本人ほどでないがアメリカ人も多くの命を失った。今も日米にいろいろトラブルがある。しかしそれらは怨恨、憎悪といったどろどろした感情でない。手前勝手だが悪気のないヤンキー気質と、過去のいやなことをあっさり水に流してしまう日本人気質のせいだろう。

 だから終戦後47年も経ったのだから、よその国も戦争中に日本軍が犯した犯罪を忘れてくれると思ったら、当てが違う。従軍慰安婦など繰り返し攻撃される。アラブ、東欧の民族紛争をみても、その怨恨の情のしつこさは日本人の理解力を超える。

 昨年12月8日の真珠湾攻撃50周年に当たって、ブッシュ大統領はアメリカの原爆投下を正しかったと言明し、一部の日本人がこれを批難した。しかし当時、日本が原爆を持っていたら、ためらわず報復攻撃をしただろう。しかも新型爆弾の威力のすごさは、さしも頑迷な撤退抗戦派の軍部をも黙らしたという効果があった。
 ともかく日本人は原爆の日を、アメリカへの報復の日にしなかったのは賢明だった。


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プロフィール

増田周作

Author:増田周作
(株)日新出版 創業者
月刊「特装車」「特装車とトレーラ」「NewTRUCK」編集発行人
「東京トラックショー」創立・主催者

大正15年8月30日生まれ 土佐出身
(H23年すい臓ガン、翌年肝臓ガン発病)
平成24年11月21日 肝不全で死去
       享年87歳

旧制中学1年1学期、上級生とのケンカで先方2名と共に退学処分。
15歳で安岡正篤先生門下に入る。
大阪商科大学(現・大阪市立大学経済学部)卒業。土木従事、新聞社を脱サラ後、広告代理店経営。昭和44年43歳、東京でトラックの月刊誌発行を始める。
湯島聖堂「斯文会」名誉会員・後援会常任委員を務める。
「呉越会」「東京トラックショー」「増田周作のおはようコラム」「日新論語会」など、常に社会の木鐸(ぼくたく)でありたいと願った“いごっそう”であった。
伊与田覚学監は10歳年上の叔父。

【 これがほんとうのあとがき。43年のもの書きの、最後の後書になった。われながらよく書き続けたものだと思う。
「生涯現役」。もの書きとして生涯現役を貫いた喜び、これに勝るものはない。読者の皆様に最後の「わだち」をお送りしてお別れをしたい。今、私は至福の感をもって最後のわだちを書いている。
 みなさん さようなら  11月13日 】
絶筆 H24年/12月号
「わだち=月刊 NewTRUCK 編集後記」

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