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みなさん さようなら

2008年8月22日
軍功を誇る機会もないままに戦死した部下への思いやりの自叙伝記事

 生還することがほとんど望めない特殊潜航艇攻撃について、山本五十六連合艦隊司令長官は必ずしも賛成でなかった、と言われる。しかし、爆弾を抱えて鉄条網を破った「爆弾三勇士」のように、軍人だけでなく国民の戦意を高揚させるために、死をも厭わない戦場の英雄を作り、大々的に賞賛することは戦争遂行のためには必要でもあった。

 特殊潜航艇が発進して生還せず、米艦隊は壊滅的損害を被ったのだから、真珠湾奇襲の功績の多くの部分を彼らに与えて大いに顕彰、国民の戦意高揚を海軍は考えたのだろう。

 しかし、淵田始め攻撃航空隊に参加した搭乗員は、奇襲に成功したのは自分たちの働きだと信じているし、同僚に55名の戦死者も出している。戦場での軍功争いは昔も今も変わらない。なぜ潜航艇乗組員への感状が「武勲抜群」で航空隊へは一段下の「武勲顕著」なのか、航空隊搭乗員にとっては納得できないところであったに違いない。

 淵田は、間もなく第一戦から退いて幕僚になり、戦後まで生き延びたが、彼に従って真珠湾攻撃に参加した航空隊員は、ほとんど大戦中に戦死した。淵田が、海軍当局の事実ねじ曲げの恥部を書き遺したのは、せめてもの後輩たちへの思いやりによるものだろう。

戦艦ミズーリ砲塔 前方はアリゾナメモリアルホール 18437

                  「戦艦ミズーリ」の砲塔前方の「アリゾナ・メモリアルホール」

戦艦ミズーリ 降伏調印式場 18444

               「戦艦ミズーリ」の日本降伏調印式場 淵田は前方の一段低い甲板にいた



2008年8月25日
悲惨な戦争を知る者こそ平和を説く資格がある

 淵田は終戦直前の広島原爆投下翌日に被害調査のため現地を訪れた。さらに長崎でも調査に従事、調査団の多くが原爆症で死亡した中で生き永らえたことも、戦争の悲惨さを身を以て味わった淵田が、後にキリスト教伝道に従事する伏線になったと思われる。

 淵田らの航空隊によって瞬時に撃沈された「戦艦アリゾナ」のすぐ前方には、東京湾で行われた降伏調印式の式場になった「戦艦ミズーリ」が繋留されていた。淵田は正式随員には加われなかったが、介添え役のような形で調印式の一部始終を見て克明な記録を残した。

 連合軍司令官マッカーサーの芝居気タップリの調印の後、淵田の正面の敵であったニミッツ元帥がアメリカ国民代表として調印するのを淵田は見た。後年、伝道師として渡米した淵田をニミッツは温かい眼差しで迎えて、かつての敵同士は心温まる交流を果たしている。トルーマン前大統領、アイゼンアワー欧州連合軍司令官など著名アメリカ人と相次いで面会した淵田は、アメリカでも有名人になり、かつての旧海軍軍人からは、売名的とかアメリカに媚びているなどの批判も出た。しかし、悲惨な戦争を知る者ほど平和を語るべきだと、淵田は意に介しなかった。晩年糖尿病に悩まされ、73歳で死去した。
(この項おわり)



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プロフィール

増田周作

Author:増田周作
(株)日新出版 創業者
月刊「特装車」「特装車とトレーラ」「NewTRUCK」編集発行人
「東京トラックショー」創立・主催者

大正15年8月30日生まれ 土佐出身
(H23年すい臓ガン、翌年肝臓ガン発病)
平成24年11月21日 肝不全で死去
       享年87歳

旧制中学1年1学期、上級生とのケンカで先方2名と共に退学処分。
15歳で安岡正篤先生門下に入る。
大阪商科大学(現・大阪市立大学経済学部)卒業。土木従事、新聞社を脱サラ後、広告代理店経営。昭和44年43歳、東京でトラックの月刊誌発行を始める。
湯島聖堂「斯文会」名誉会員・後援会常任委員を務める。
「呉越会」「東京トラックショー」「増田周作のおはようコラム」「日新論語会」など、常に社会の木鐸(ぼくたく)でありたいと願った“いごっそう”であった。
伊与田覚学監は10歳年上の叔父。

【 これがほんとうのあとがき。43年のもの書きの、最後の後書になった。われながらよく書き続けたものだと思う。
「生涯現役」。もの書きとして生涯現役を貫いた喜び、これに勝るものはない。読者の皆様に最後の「わだち」をお送りしてお別れをしたい。今、私は至福の感をもって最後のわだちを書いている。
 みなさん さようなら  11月13日 】
絶筆 H24年/12月号
「わだち=月刊 NewTRUCK 編集後記」

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